スピーカー用コイル測定記事の一つですが、一記事ずつ見ても分かりにくいので(1)の概要記事から辿っていくことをお勧めします。
測定した各コイルの紹介は(2)の記事にあります。
概要
今回はコイルのインダクタンス変化の影響についてです。
(3),(5)記事の測定から、
・空芯、コア入りに関わらず周波数によるインダクタンス変化
・一部のコア入りコイルに信号レベルによるインダクタンス変化
があることが分かりましたが、1つめの周波数によるインダクタンス変化はクロスオーバーにさほど影響を与えません。
低次のネットワークほど影響は大きくなりますが、極端な変化で無い限り3次や4次スロープであればクロス周波数±1octくらいの範囲でコイルが希望のインダクタンスに収まっていれば、ほぼ上手く機能してくれます。
一方で信号レベルによるインダクタンス変化は、音量によってクロスオーバーが変わってしまうことになるのでこれは問題です。
(5)で測定したERSEは電流10倍で約7%、Jantzenトロイダルは30%近く変動しました。(ただし低信号レベル)
もちろんコア入りコイルには低周波領域でRsが低いという圧倒的な利点がありますので、今回はこのインダクタンス変化がクロスオーバー特性にどの程度影響を与えるか検証してみます。
感覚的にはインダクタンスが信号レベルで数~数十パーセント変化すれば音としての違いを耳で検知できそうな気もするのですが、知識が無いのと検証法も思いつかなかったので今回はスルーしました。
シミュレーション
さて、1.2mHと8Ωで一次LPFを組み、音量によって1.2mHのコイルが1.3mHに変化するとすると特性の差は以下のようになります。
青が1.2mH+8Ω、赤が1.3mH+8Ωのフィルタです。
同じ周波数で見るとせいぜい0.5dB程度の差で思ったよりも変化しません。
これは人間の感覚にあわせて対数的に圧縮されているからですが、カットオフ周波数自体は1061Hz(1.2mH)から979Hz(1.3mH)と変化しています。
検証していませんが高次のフィルターの方が影響が出やすいかもしれません。
また当然位相特性も合わせて変化しますので、シミュレーターを使った厳密な特性合わせをしてる場合には注意が必要です。
測定方法
10Ω抵抗とコイルで一次LPFを組んでパワーアンプでドライブし、それぞれ信号レベルによる差分を調べました。
信号レベルは5Vrmsからリスニング環境で現実的に確保できそうな-60dBまで変化させました。
上の画像は一例ですが、LPF両端の信号レベルを5Vrmsから-60dBまで変化させた際の特性をそれぞれ取り、Speaker Workshopの割り算機能でdB差を検出します。
もしコイルが信号レベルで特性の変化しない理想的なものであれば、この2つのカーブの差は60dBでフラットな特性が出るはずです。
測定結果
以下が結果です。
上から黒がJantzen空芯、水色がコイズミ コア、緑がJantzen コア、赤がERSEコア、青がJantzen トロイダルコアです。
各コイルについては(2)の記事を参照してください。
低周波で60.2dB程度になっているのは実験で使用したDACのボリュームの誤差だと思います。
まずJantzenのトロイダルコアは変化が激しく、60dBの信号変化でクロス周波数(1061Hz)での音圧が約1.5dB程度変化しています。
またERSE コアはクロス(1326Hz)で0.5dB程度、Jantzenコアは0.2dB程度低下します。
一方でJantzen空芯とコイズミのフェライトコアはほとんど変化しません。
低周波で減衰しないのはアンプからの出力電圧がほぼ全て抵抗の両端電圧になり、コイルが関与しないためです。
まとめ
このように多くのコア入りコイルの場合、音量によってクロスカーブが多少変動することが分かりました。
この点では空芯が有利ですが、低域の制動を考えればコアコイルが圧倒的に有利であり、60dBのレベル変化で1dB未満のずれであれば個人的には誤差かなとも思います。
ただし、あくまで今回の測定結果は10Ωとの一次LPFに限ったものであり、今回測定していないコイルや負荷、今回測定した種のコイルでも値によって変化が大きくなることも考えられますので注意は必要です。